「森」は太陽の恵みを受け、空や宇宙からのメッセージを受け取り、「水」はその恵みとメッセージを運ぶ・・・そんな思いからこの「森の音、水の響き」は企画されました。
尺八奏者の田辺洌山氏を始めとする現代の邦楽界で脚光を浴びる演奏家の音楽を通じ、私達が次世代に伝えてゆくものについて思いをはせていただければ幸いです。
尺八は竹林をわたる風の音を理想とするともいう。つまり尺八の音は、もともと私たちが守るべき自然の音そのものなのである。尺八音楽が本来もっている深い精神性は、自然の声を表わすといっても言い過ぎではないだろう。だから水に代表される自然環境を守るという運動から考えれば、尺八は最もふさわしい楽器の1つだし、その尺八音楽の伝統は、この運動の精神に最も近いといってもいいのではないだろうか。その意味では、このCDの中で、尺八がもっとも尺八らしい音楽を作り出している“・・・ing”と“濤声”が、この運動の最も重要な部分に通じるところがあるように、私には感じられる。
“濤声”に登場する大鼓(“おおかわ”ともいう)もとても面白い楽器である。大鼓の系譜の鼓が歴史上はっきり姿を表すのは、正倉院に伝えられたものだが、胴のくびれた部分に3本の筋が入っているのが、この系統の楽器の特徴である。これは雅楽の高麗楽(朝鮮系の音楽)をリードする三ノ鼓や現在も韓国・朝鮮で盛んに使われている杖鼓(ちゃんご)と同系統の楽器である。そして平安期には巫女が託宣をする時に打っていた。その後巫女から一部の人が芸能者である白拍子(しらびょうし)になったが、その楽器としても使われ、舞の基本になるリズムを打つのに使われた。この白拍子の芸は、能にとり込まれるが、大鼓も当然それにとり込まれたのである。それにしても大鼓は能や歌舞伎の囃子の楽器として洗練を重ねたにもかかわらず、巫女の楽器らしい鋭さや気迫を持ちつづけているのは驚くべきことで、それは“濤声”の中でも感じられるだろう。